だから私は一段上を歩く。 002:階段 それは小さな意地。 彼はいつもゆうゆうと私の上を行く。 例えば、そう。 「俺たちでさえきついタックルやスライディングできないのに」 そんな台詞を聞いたことがある。 それは彼がフェミニストだということだけではなく、 ちゃんとプレイ中に私が女だって思って、それから止めてることだ。 あの時高井は私に思いっきりぶつかってきてた。 そんな、そこまでの必死さで私にぶつかってきたことがない。 そういうことじゃないの? ねぇ。水野。 「小島。来週の日曜も選抜行くから」 そんな些細な一言にも重みを感じる。 「うん、分かった。」 歩きながらスケジュール帳に「水野選抜」と書き込む。 キャプテンが居るのと居ないのとでは、たとえコーチが来るとはいえ練習内容が変わる。 そのことを見越してのことだ。 他意は、本当にない。 「…東京選抜、か」 水野に聞こえないように。 水野に気付かれないように。 選び抜かれた彼ら。 選ばれた、抜きん出た存在。 それが選抜。 私のずっと前に水野は居る。 …私だって、男に生まれていたら。 あんたと同じ舞台で戦えただろうに。 「関東選抜と練習試合なんだ」 レベルの高い話。 それを聞くのは好きだ。 けれど同時に味わう、羨ましさ。 「そっか。また試合の話、聞かせてね!」 それは小さな意地。 彼はいつもゆうゆうと私の上を行く。 並んで歩くことが恥ずかしくて、だから私は一段上を歩く。 並んで歩くことが悔しくて、だから私は一段上を歩く。 私の心はそんな葛藤をしていて、それでも結果は一緒だから。 水野と階段を歩くときは必ず上を行ってやるのだ。 いつか、こいつに真っ平らなフィールドで私相手に本気にさせてみたい。 その時は 絶対に勝ってやる。 小島さん闇の部分垣間見? Back |