ちゃらちゃらっちゃちゃー。
 ちゃらりらちゃらりらっ…ぎゅりゅりゅりゅりゅ。
 ぱぱぱぱっぱぱー。

 都会というのは得てしてうるさいものではあるのだが。




  008:パチンコ




 今日は先週から楽しみにしていたサッカー雑誌の発売日だ。
 藤代のように誰それ選手が格好よくてうんぬんと語りはしないが、自分だって好きな選手ぐらい居る。
 彼はあまりメディアに登場しないことで有名なのだが、独占インタビューと、彼のプレイの徹底分析がその雑誌には掲載されるらしい。
 その事をホームページで知った時には思わず「お」とモニターに顔を近付けてしまったものだった。

 学校の購買にある訳がないし、近くの本屋にも入っているか微妙なところだ。
 万を期して寮の自転車を借りて、最寄り駅からもう一つの駅前の大型ブックストアまで買いに行くことにした。

 すぐ順風満帆に買い終わり、久々にゲーセンでも寄って行くか、いや一人で行くのもなぁ、などと三上が思っていると、そこに居たのは意外な人物。


「…せんせ?」

「…あらま、三上君。」

 保健医の杉山だった。
 大通りと商店街の交差点にてばったりと出会ってしまった。
 いつも白衣の彼女を見ているだけに妙に違う人物であるような気にもなってしまう。
 しかし毎週のように怪我をしてはお世話になっている人だ。
 だからといって恋愛感情が湧いたりはしないが。


「あんた何でこんなトコいるのよ」
「本買いに。先生は?」
「…ええと、私も「家庭の医学」の最新版が出たから買いに」
「ふーん」
「えへへ、私って勉強熱心だからねー、あんたはエロ本?」
「馬鹿言え」
「あらー、恥ずかしがることはないのよ男子中学生」
「いや違うし。サッカー雑誌だっての」

 がさがさと茶色い紙包みから半分だけ出して見せる。

「その中にもう一冊入ってる訳ね、なるほどね」
「見りゃ分かるだろ。一冊しか入ってねぇっての」
 毎回どういう思いで俺を見ていやがるんだこいつは。

「で、「家庭の医学」に誤魔化される俺だと思ってんの?」

 にやり、と三上は口をななめにした。

「その紙袋の中身、見て良い?」
「…っ、これは日用品よ?」
「じゃあ見せて」
「え、いや、うん、ええと」

 中身は確かに日用品。
 缶詰やら洗剤やらインスタント食品やら。

「ふーん、今日は勝てたんだ」
「!…っ何故それをっ」

「いや、見りゃ分かるって。ここ、パチンコ屋の前だし」


 ちゃらちゃらっちゃちゃー。
 ちゃらりらちゃらりらっ…ぎゅりゅりゅりゅりゅ。
 ぱぱぱぱっぱぱー。
 大音量で流れてくるそれらの音は、人が出入りするたびに更に大きく聞こえた。
 うるせぇなぁ、と三上は話しながら思う。
 何故この音を平気で聞き流していられるのか不思議でならない。
 ゲームセンターも似たようなものなのかもしれないが、今の三上には「うざい」の一言で片が付きそうだった。



「タバコにパチンコ。ろくな保健の先生に思われねぇぞ」
「三上にしてはまともな意見ねー」
「あのな」
「まぁまぁ。これあげるから」
 そう言って彼女はさばの缶詰をひとつよこした。
「…いらねぇ」
「なによ、じゃあこれもあげる。缶詰って結構重いから結構邪魔なのよね」
 渡されたのはいわしの缶詰。

「うわ、いらねぇ…」
「なによ、折角の好意を無駄にする気?」
「もっといいもんにしろよ、折角なんだったら」
「例えば?」
「うに。」
「…うにって、あのうに?寿司で軍艦巻きになってる…」
「俺はそれ以外のうには知らないが」
「それは私に寿司食いに連れてけと?」
「ああ」
「…そこまでは勝ってないから!じゃ、また学校でね三上君!」


 ちゃらちゃらっちゃちゃー。
 ちゃらりらちゃらりらっ…ぎゅりゅりゅりゅりゅ。
 ぱぱぱぱっぱぱー。


 走り去って行ってしまわれた。
 三上に缶詰2つ寄越したまま。


「ったく、何だよ」


 かくして、さばは武蔵森サッカー部キャプテン様に、いわしは抜け目のない猫目の後輩の元に旅立っていった。
 しかしその直後エースストライカーが自分への土産がないことにたいそう憤慨していたことは、三上にとってはどうでもいい話である。








 この二人の会話を書くのはたいそう楽しいです。
 004:マルボロのお二人さんですね。





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