劇のチケットを貰った。 大して興味もなかったが、折角貰ったから見に行くことにした。 先月から付き合ったばっかりの、真田一馬と一緒に。 016:シャム双生児 劇の内容は、鮮烈なものだった。 醜く聡い女の子と、美しく頭の弱い女の子のシャム双生児。 両方死ぬか、手術してもどちらかしか生きられない。 だって心臓は二人で一つなのだもの。 「どっちを選ぶの」 その言葉が、妙に頭に残った。 「あの、今日は、ありがとう」 私よりも早く歩く一馬に追いつこうと小走りでついて行く。 ここ一月一緒に居たから分かる。 女の子を待たないで早く歩くのは、気遣いが出来ないんじゃなくてきっと今は自分のことで精一杯に考えを巡らせているからだ。 「別に」 一馬は、お礼を言われることや、謝られることが苦手だ。 自分が言うのも苦手だ。 これも、付き合いだしてから分かったこと。 付き合いだして初めて一馬は私を誘った。 「公園、行く?」 昨日、一馬と、初めての喧嘩をした。 理由は些細だったはずのこと。 「どうして、何も言ってくれないの」 「言葉にして」 朝、演劇のチケットを貰った。 少し悩んでから、一馬を誘った。 昨日の仲直りはしないまま。 表面上は、ぎこちなく、それでもお互い機会をうかがっていた。 何故普通に、いつものようにしようとしていたのか。 それは、二人とも分からないまま。 きっと、あのまま放っておいたら、絶対に一馬からは連絡がなかったと思う。 それで次の日連絡を取った私は格好悪い。 まるで片思いだ。 それでも。 私は、一馬を失いたくない。 一馬も、少しは、そう、思ってくれてますか。 それが分からなくて、今日、誘った。 劇のチケット、なんて、体のいい言い訳だった。 公園のベンチに座った私たちに言葉はなかった。 やっぱり口を開いたのは、待ちきれなくなった私だった。 「…どうして、公園に誘ったの?」 一馬は私のほうを見ない。 そういえば、私の目を見ようとしてくれたことなんて、めったになかった。 「…じゃあ、どうして劇に誘ったんだ?」 一馬は、怒っているような台詞を、痛くなるほど優しい声で言った。 一馬は続けた。 「…たぶん…、…同じ理由」 「あれから、考えた、いろいろ。」 「…うん」 「これから、言うから」 「うん」 「俺も、悪かった」 「……うん」 「だから、…ごめん」 「うん」 「うんしか言ってないぞ」 「うん」 「…だから、泣くなよ」 一馬のポケットから出されたハンカチは、とても清潔そうで。 それを汚したくない気持ちが妙に溢れて、涙がまたこぼれる。 どうしたらいいか分かんねーんだよ、と、呟く一馬に、私は、今までの一馬はそうだったのかと思った。 どうしたらいいか、どう言ったらいいのか、ずっと分かっていなかったのか。 ドラマやら漫画みたいに一馬は泣いてる私を抱きしめるなんてことしてくれなくて。 それが一馬らしくて。 嬉しいのか悲しいのか切ないのか分からないまま私は泣いた。 「ねぇ、劇、どう思った?」 半分泣いたまま、私は聞いた。 泣いている自分に恥ずかしくなってそんな話題を振る。 「あたし、一馬とくっついてて、片っぽしか生きられないんだったら」 息を止めた。 「あたしが」 「言うな」 感受性の高い一馬のことだ。 きっと、わたし以上に重く受け止めていた筈だった。 「言うな」 厳しい一言に、わたしは、微笑んだ。 「…うん」 「ねぇ、好きだよ」 「…なっ」 「うん、だから。帰ろっか。」 「ばっ…ばっかじゃねーの」 「うん?」 誤魔化した会話。 だけど、電車の中、ぽつりぽつりと私の感想に言葉を挟んでくる一馬に嬉しさがこみ上げる。 考え方は違っても、こうやって話し合えることが、最大の進歩だと私は思う。 言葉にして。 一馬に求めたそれは、確実に、応えてくれていた。 …うーん、ドリーム小説と言えるのでしょうか。 だよね?これだよねドリーム小説って! 本当にこの元ネタの劇があります。是非!と言いたいのですが、題名を度忘れしちゃいまして…。 シュラとマリアって女の子たちだったかと思いますが、題名がー題名がー。 某大学の演劇部の公演で見たのです。素敵でした〜。 Back |