チャイムが鳴った。
 あいつは私と似て遅刻が嫌いだから、きっと予鈴のこれと本鈴の間に走り込んでくる。
 そして涼しい顔しながら、席に付くんだ。



  025:のどあめ



 ざわざわと騒がしい教室の可も不可もない場所の自席に座る。
 いや、可はある。
 水野の隣はサッカー部の打ち合わせがしやすい。

「小島、はよ」
「おかえり水野」
 言い終える前に微笑んでやる。少しだけ面食らった顔にしてやったり、と思った。お疲れ様の意味を込めてお気に入りののどあめを差し出す。

「…あぁ」
 おかえりの言葉にか、そののどあめに対してか、ありがたく貰っておきましょうと言わんばかりに水野も微笑する。
「あ、ただいまは?ありがとうは?」
 からかうように笑う私に、ムスっとしたいつもの表情をよこし、いつもより乱暴に鞄を机の上に置いた。

 きっとずっと言ってくれないだろうね。でも、別にそれでいい。言ってくれないのは特別な証なんだろう。
 それは勝手な思い込み?
 けれど、そうでも思わないとこの王子サマと付き合っていられない。

 不器用なんだか、器用なんだか。
 とんでもない数の東京都の中学生の中から選ばれて一番最初に正式メンバーに決定しながら、どうも中では補欠合格の風祭より浮いた存在だったらしい。
 その不器用な所を棚に上げて話すと、単純に凄い、と思う。活躍にも喜んだ。

 それでもつい、口に出してしまった言葉は。


「…またこっちでも頑張ってよね、キャプテン」

 引き止めの感情が混じった。


「…当たり前だ」


 照れた顔、ファンには見せられないよ。なんだか可愛すぎるから。

 照れを隠すためか、さっき渡したのどあめを水野は口に放り込んだ。


「サン太がサボってたわよ、みゆきちゃんの見てない所を選んで」
 しかめ面の水野に、あんたが居ないと困ると言った。
 変な意味じゃなくてと付け加えた時、本鈴が授業時間を知らせた。

 くるくる変わる、色んな表情。水野がクールだなんて嘘でしょう?
 隣に座っていると、大丈夫。また一緒に頑張っていけそうな気がする。
 とりあえず、卒業まではこの距離で居たいと思った。

 絶対に気付かれたくないけど、ちらりと見た水野の横顔に宜しくライバル、と心の中でこっそり呟いた。
 男の横顔盗み見なんて、なんだか女の子の行動のようだけど。


 …まぁ、いっか。

 水野が口にしているものと同じ味のあめを私も先生が来る前に口に放り込んだ。
 これをなめ終わるまでは、楽しいことを考えていよう。


 この6時間の授業を終わらせて、風祭とかサン太とかみゆきちゃんとか不破とか…水野とサッカーしたい。
 やっぱり、それが一番の私のやりたいことなんだ。
 水野の横顔の向こうには風が速い空が見えた。

 のどあめのせいだろうか。



 呼吸をすると空の風が、通った気がした。










 はい、何と言うか…。思いっきり昔の私の文章って感じがします。
 独りよがりと言うか乙女乙女してるやたら悟ってる主人公と言うか。
 有希さんが「付き合っていられない」と言っていますが、これは友人として、って意味です。
 とりあえず。






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