それだけ、たったそれだけのこと。
 なのにどうして。




  034:手を繋ぐ




「あ…」
「…よぉ」

 逃げられない、と思った。
 そして、これが、最後のチャンスかもしれないということも。


 陽菜が散々この学園をかき回すだけかき回してフランスに旅立って行った今日その日。


「行っちまったな」

 快人が笑った。
 それは、苦笑に似ている。
 でも、嫌味のようなものは含んでいないように思えた。
 それは、365日前なら考えられない表情。
 でも、その笑顔はそこに確かに存在した。
 私という人間に向けられた、私というものの前で。

 毎日学校に来ている自分にも驚く。
 私も変わったのだ。


「…そうね。」
 驚くほど素直な返答だと思う。
 自分で信じることが出来ないくらい。
 これなら、言える、と思った。



「私」

 一歩近づいただけで、鼓動が聞こえそうだと思った。
 人気がなくなった学校の廊下の、窓ガラス越しに差す陽の光は優しくて。
 あの友人に似ていると思った。




 拒否されることが怖くて、それでも右手を差し出した。




 ぎゅ、と皺が出来るくらい快人の左腕の服を握った。



「ほんとは、嬉しかった。」



 囁くように、それより甘さが足りない、かすれた声で、言った。

 快人の右手が、さとすように私の手を下ろす。

 心臓が高鳴ることに理由を探している暇などない。

 やはりもう時間が経ちすぎていたか。

「本気で惚れてたのはお前だけだった」
 気付くべきだった、過去形だったこと。

 快人をこうやって前に向かせたのは私じゃなく、陽菜だったのに。
 それを忘れていたとでもいうのか。



 頭を巡る思いを整頓することは出来そうにない。





 快人の、私の右手に添えられていた左手は、しかし彼の右手の甲の上で動きを止めた。





 その右手が私の手を包んだ。
 何年ぶりか。
 その感触。
 その感覚。
 手を繋いでいる、その。




「またやり直せねぇか?」

 伝わってくる緊張と暖かさと小さな震え。


 何ヶ月ぶりか、何日ぶりか、何時間ぶりか、何分ぶりか、何秒ぶりか。




「…出来るわよ、きっと」




 私たちは、今、手を繋ぐ。











 このカップルが陽菜と宵威より好きかもです。
 どうでもいいかもしれないですが、小柴がシゲに見えて仕方のない時があります。









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