バレンタイン、貴方はどう過ごしますか?



  044:バレンタイン



  *水野竜也*小島有希*


「本命はお兄ちゃん、だっけ?」
「あら、良く分かってるじゃない。はいこれ」
「お前もベタなヤツだな、今時チロルチョコ本気で渡すかよ」
「本命以外のヤツにあげるチョコにお金はかけてらんないのよ」
「はいはい。で、後ろに持ってる青の小箱は、俺の?」
 思い切り赤らめた顔を見せた時点で、彼女の負けは決まり。
「アリガトウ」
 そして笑顔の彼の勝ち。










  *U-14*


「英士っ、何個だった?」
「……電話で開口一番それとはね…。バカ?」
「ばっバカって何だよそれー」
「バカみたいな言い方したからでしょ。ところで一馬は?」
「ああ、うん。一緒。さっき合流したから」
「俺はいつもの所に居るけど。女神の像のとこ」
「あ、みっけ!!英士、こっちこっち」
 大きく手を振って英士が振り向くのを確認すると結人は電話を切った。
「英士、早かったな」
 一馬が駆け寄ると英士は微笑した。
「まあね。行こうか」
「で、英士結局何個だったんだよ」
「結人こそ」
「俺様はモテモテ君だから20個は軽いね!」
「英士英士。結人さあ、近所のおばちゃんとか自分の母さんのも数に入れてんの」
「……」
「そんな熱い目で見るなよ…英士クン」
「一馬は?」
「ど、どうだっていいだろ」
「あー!何だよ、結構貰ってやがるな、この顔はっ」
 彼らにとっては、まだ女の子と付き合うよりも、友達同士で騒いでる方が性に合ってる。










  *椎名翼*西園寺玲*


「……」
「……」
「……なあに、翼」
「……べっつに」
「あら、私からのチョコレートがないから拗ねてるんでしょ」
「そ、そんなことない」
「じゃあ、要らないの?これ」
「……悔しいけど、要る」
 玲からひったくるようにして手に入れたのは、翼好みのビターチョコレート。










  *佐藤成樹*上條麻衣子*


「お嬢ー、チョコ頂戴」
「……何を言ってらっしゃいますの」
「今日バレンタインやん。とぼけやんとってや」
「そんな両手にチョコレートを抱えた方に差し上げるチョコレートなんて」
「「持ち合わせていませんから」?」
 上條は溜息を吐く。
「分かっているなら愚問ですわ」
「じゃあ、このチョコレート全部返してきたらお嬢はチョコくれるん?」
「そんなことありませんわ。そもそも持ってきていませんもの」
「持ってきてないっちゅうことは、作ってくれたん?」
「揚げ足取りのような言葉ばかり口になさるのね、違いますわ」
「えー、お嬢酷いなぁ」
 上條はもう一度溜息を吐いて、それから鞄を漁った。
「小島有希から押し付けられたクッキーで良ければどうぞ」
 笑顔で受け取る佐藤に、餌付けでもしている気になったのは仕方ないのかもしれない。










  *風祭将*桜井みゆき*


 去年は「調理実習」と誤魔化した。
 だから、今年こそは。

『風祭先輩へ
 ドイツでの生活はどうですか?少しは慣れましたか?
 サッカー部の皆さんも、受験勉強、頑張ってらっしゃるようです。
 たまに息抜きと称してサッカーをしに来て下さるんですよ。
 皆、サッカーが本当に好きなんだなあと嬉しくなります。

 そろそろバレンタインですね。私も先輩に送ります。
 届くまでに、形が崩れないといいのですが。

 それではまたお手紙書きますね。
 リハビリ、頑張ってください。

 桜井みゆき

 P.S. 先輩に、ずっと言いたいことがあります。
 それは、先輩が帰ってきたら、言いたいと思います。
 だから、帰って来て下さい。私たちは貴方の帰りをずっと待っていますから。』

 やっぱり書けなかった「好きです」の一言。
 それでも、あの人が帰ってきたら、きっと言うから。
 バレンタインは、そんな小さな勇気のエンジンだ。









 オムニバス形式第2弾。
 バレンタインっぽくないような気もしてきた初夏の午後(現在)。






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