053:壊れた時計


 壊れかけた時計があった。
 川沿いにある道の、川とは反対側の駐車場の壁に付いている時計。
 短針が全く動かない。それはいつもいつでも六時のまま。
 長針は正確な時間を毎日刻んでいた。この道を通るのはたいてい学校帰りだ。今何分か分かるだけでも何時か分かるものだった。
 面白いな、と思った。
 いつも夕方になるとこうもりが音を立てずに飛んでいた。静かなその道は、あかりが歩く音以外何も聞こえない。いつもの道から一本だけ遠回りするだけなのに、その道は独特の雰囲気を持っていた。静かで、都会の中にしては川と木々がちょっとした遊歩道めいていて、でもとにかく静かで。

 雨の降る日が一番似合うような道。
 そんな場所に、たださらされている時計。

 この道を幼なじみと歩いた時、時計を見て彼は一言「すぐ時間が分からないのは不便じゃん」と笑った。
 ああ、ヒカルはそういう人だよねと思いながら、「もう、ロマンがないなあヒカルは」とすねてみせた。

 学校から帰る道。部活があったから一緒に帰ったりして。一番近道は車がびゅんびゅん通る。その一本だけそれた道。だから、いつも通る道。通るたびにその時計を気にしたりして。



 ヒカルが、プロになった。



 呆然とする。
 彼氏から別れを告げられた。それ程までにショッキングでいて、しかしそんな経験がないから分からないや、と苦笑してみせることが出来るほどの余裕があった。
 遠い場所に行ったような、幼なじみという関係が遠い存在になったような、そんなヒカルとの距離を急に突きつけられたようで、あかりはとぼとぼと帰宅する。学校で知らされたというのも「幼なじみ」という響きから遠くて、プロになったとき、すぐにうちに来てくれたらよかったのに、そう思う。
 だって、他の囲碁部のメンバーと同じ扱いで。
 特別扱いして欲しいなんて思わないけど、やっぱりどこかでそう思っていたのかもしれないと気付くと、きゅっと左の胸が痛んだ。

 泣く事も出来ない。だって嬉しいもん。ヒカルが、プロだよ?
 朝起きれなかったり、好き嫌いが多かったり、って、ヒカルのダメなとこ、一杯挙げれる。小さいとき、いじめられて一杯泣かされたりもしたもん。あかりは心の中で一人愚痴る。そんなことを考えていないとヒカルが「もう幼なじみとか言っても、プロになったんだから会えねーし」などと言っている所を想像してしまうのだ。愚痴も腐るほど出てくるが、良い所も両手では確実に足りないほど言えるのだ。

 ガシャン!!

 音に驚いて、目をみはった。
 駐車場が、壊されていた。
 時計が、壊されていた。

 あかりはその光景に何も言えなかった。


 その壊れかけていた時計が自分の所有物ではない、そう思い知らされる。

 そう、ヒカルもそうだった。
 自分のモノじゃなかったのだ。
 さっきの悲しさによく似た気持ちは、玩具を取り上げられた子供みたいだ。


 ――――――欲しかったの?
 自問する。
 ううん、そうじゃない、ただ、そこで、いつものように、自分の傍で……ただ笑って居てくれるだけで良かったのに。……でも、それは欲しかったということだ。

 音が響き渡る。いつもとは逆だ、静かな道が、黄色い工事ロープで一部区切られて、ちょっと土煙のようなものが舞って。
 力が入らない。だって分かってしまったのだ。






「わたし、ヒカルのことがすき……」






 その言葉はクレーンの機械音にかき消される。






「すき」







 ヒカルに対するこの感情に、長い間名前なんて付けられなかった。ああ、私ヒカルのことが好きだったのかと妙に納得する。力が入らない。足が震え、その場へしゃがみ込んだ。


「……すき」

 言葉は、誰にも届かない。








 尻切れトンボで申し訳なく…!しかも昔の「時計」という作品のリメイクのような感じでございます…。あかりちゃん変な子になっちゃったし。でも私あかりちゃん大好きなのですよ。ヒカルを見守る感じ。囲碁部に入ったのもポイント高かったです。
 んでも何かホントに色々すみません。コミック読み返してないからいつヒカルがプロになったかすっかり忘れたままでアップしてすみません。そもそもコミックが最初の数巻しかないのに書いてすみm(略



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