定期的なその音に飲み込まれそうになった。 056:踏切 二つの赤が交互に、音に合わせているのだろう点滅する。いつものことだ。下校途中に踏切停止につかまるなんて。その日が特別な何かがあったわけじゃなくて、でも何故だったのだろう。 ほんの。 ほんの些細な衝動が。 死んでみようか。身体に信号を送る。 雲の切れ間からは赤い光が射していた。太陽は真正面に見えていて、目を閉ざそうが閉ざさまいがその色は強烈な印象をもたらしている。たそがれという言葉より切なく、響きより激しい。視界に広がる全てが、みんなみんな赤だと思った。 カンカンカンカンカンカンカンカン。永遠に続きそうな。 音。赤。衝動。血の猛けり。 ご、ごごごごご…。電車の近付く音に空気は揺れる。俺は身体が静電気の中に居るような感覚になった。ちゃちな作りの踏切棒が小刻みに震え、俺を引き寄せてるのだと錯覚させる。一歩、踏み出す。ごごごご…。音は次第に大きく、近く、心臓は大きく波打つ。わくわくしている時の気持ちに少し似ていて、それよりも身体の割合から心臓それ自体が大きくなったようで、それはすっかり不快だった。 近付く音。点灯する赤。頭を占める音。繰り返される赤。 それらが些細だった衝動を大きくする。赤、その色は血の色と同じだと思った。 オマエナンカイラナイ。俺はランドセルを背負い直す。例えばたまにランドセルが気恥ずかしく思える時がある。背中に馴染んだそれは、今全く意識はされず、頭は赤に集中していた。 ナンデコンナコウンジャッタンダロウ。忘れられない言葉がカッターナイフで俺の内側をえぐる。お母さん。…お父さん。イラナイ。電車が来る風が俺を呼んだ。イラナイ。俺の足は確実に歩みを始めた。オマエナンカイラナイ!! 「しょうくん!!」 突然、俺の腕を掴んだのは、三嶋陽菜。瞬間、轟音がして世界が暗くなった。白に青のラインをまとった電車が俺と太陽の間を数秒切り裂く。風が強くて一歩よろめいた。陽菜はそれでも風より強く腕を掴み離さず、俺を踏み止まらせている。音が、消えた。 「しょうくん、今…」「痛いんだけど」 必死な形相をしている気配がする。目を合わすことは出来なかった。陽菜の言葉を遮るように、けれど腕を振り払う気はしなかった。 「自殺なんかするわけねーだろ」 不思議と先程までの燃えるような衝動は消えている。俺が自虐的に笑うと、陽菜はもう一度きつく握った後、ゆっくりと腕から手を離した。 「…馬鹿力」 照れ隠しのように呟かれたその言葉は、赤から紫に変化してきた空へ吸い込まれる。同時に落とされた溜息は、1ミリのタバコより軽かった。 踏切を渡るといつもの憂鬱な日常が、やあ、と手を上げる。 陽菜に掴まれた腕だけが、ただ妙に熱かった。 何年書きかけでほっといたんだろ。まあいいか。ペンブラの一押しは豊さんです(今回出てきてないやん)。 Back |