絶対に叶うことはないと分かっていたから。
 ……だから、一層斜に構えてみせていたのだ。




 075:ひとでなしの恋




 いつも見せるのは偽りの余裕を見せた姿で、というのは少々大げさかもしれないが、けれどずっと、そう見せたかった。それは本当。
 努力とか根性とかスポ根のテーマになりそーなこと、他人に見せるんはものごっつ嫌や。
 心に秘めた言葉は決して音として発せられることはない。
 努力を見せるのも嫌だったし、それが嫌だと思っていることを周囲にバレているのも嫌だった。軽く「あー、練習なんかしたないなあー」などと言うのとは違う。心底嫌だと、嫌悪していることを悟られたくなかった。

 何もやっていないように見せて、たまにやると”デキるヤツ”。これが一番”カッコいいヤツ”だと、本気でそう思っていた。

 ……全くやっていなくて、出来ない、口だけのヤツほど面白くないヤツだとは思っていたが。







「努力すべし!!」
 そう息巻いて実行するヤツは珍しい。
 特に思春期、って言いますのん?努力とか言ってるだけでダサいって言われるじゃないですか?
 適度に色々こなすことが器用だということは知っていた。知っていた、と、思っていた。別にそれが真実だったというわけではないのに。真実なんて人の数だけあるなんて知らなかった。

「努力すべし!!!」
 だがそれを隠そうともしないヤツを俺は二人知っていた。
 コイツに触発されてサッカー部に戻った。

 風祭将。

 サッカーがしたい。それだけで転校するバイタリティもさることながら、ボールに触れるだけで心底サッカーが好きだという顔をすることが、ただ胸を熱くさせる。下手でも、見ていたくなるプレイ。どれだけでも粘ってくれるんじゃないかという期待のようなものが全身を巡る。



 そして小島有希。

 この女の心意気っちゅーか、何て言えばいいんやろう。
 それまでに抑圧されていた反動か、その勢いは凄まじく、俺はただ”在る”だけのサッカー部に戻ることすら理由を必要として、自分の中で言い訳を作ったのに、あの女は自分で作りおった。


 そんな二人に惹かれんわけないで、こんなに身近におんのに。
 器用に生きようと思っていた。けれど、結局俺はこういう不器用で努力を隠そうともしない連中が好きなのだ。タツボンもどっちかっていうとこっちやなあ、屈折してるけど、などと思うと笑いが込み上げてくる。ああ、サッカー部の連中は皆そうなのだ。

 俺は、近づけない領域。



 風祭に対する感情への名前は簡単で、信愛だとか友愛だとかそういうものだった。それと強烈な憧れと畏怖。強い思慕に似た感情は、俺を空へと、風へと突き上げるのに十分な材料だった。



 じゃあ小島はというと難しく。
 悩んで悩んで締め付けられるような痛みを手に入れたとき、そこで小島が好きだと気付いた。小島を手に入れたいと思った。
 そして小島の目に映る男が俺じゃない事も同時に理解した。

 ああ、そんな切なそうな目で俺を見てはくれへんねんな?
 ソイツがええねんな?

 小島の目には俺の、うん、まあこう言うてもええかな、親友と、サッカーしかうつらないに違いない。




「なあ、小島ちゃん」
「ん? どしたの」
「タツボンなんかやめて、俺を見てくれるんやったら、俺はなんでもしたるで?」

 あいつみたいに。無意識に、そう何気ない一言でお前を傷付けたりせーへん。
 誰にも悟られないように、洗濯機の影で、泣かせたりせーへん。

「生憎だけど、私人にやらせるよりも自分でやる方が好きなのよね。ほら、冗談ばっかり言ってないでさっさと練習戻りなさいよ」


 気付いたフリをしているのか。
 それとも気付いていないのか。

 辛いときは駆けつけてやりたいと思っても、きっと一人で泣きたいヤツなのだ。



 傷付けられてもいい、そいつがいいって言うのなら。
 俺の出番なんて茶番もいいとこ、一寸もないから。




「へーい…」

 そう、俺は斜に構えて見せるしかないのだ。











 ひとでなし…?
 最近シゲの思考が楽しいです。屈折してて。




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