コンビニは嫌いだ。
 なんだか無機質な感じが全てから発している気がするからだ。
 真夜中にも青々と光っているあの空間は気に食わないのだ。
 とにかく夕方でも好きでないことに変わりはない、だから先輩の申し出を丁重に断ったというのに。

「鳴海さん、暗いです」
 ひよのは憮然とした態度で人差し指を突きつけた。

「現代の高校生でコンビニが嫌いだなんて、信じられませんね」
 日々平穏に暮らしたいと本気で思っているのにもかかわらず、やっかいごとをひっかけてしまう自分に、やっかいごとに首をつっこむことを生きがいとしているかのようなこの先輩で、やっかいごと遭遇率は2乗だ。
 比例ではない。
 U字に似た2次関数のグラフを思い浮かべた。








「鳴海さんっ、これは食べるべきですよ!」
 相変わらず、この先輩はトラブルメーカーだ。





   085:コンビニおにぎり





「ですから、前から言ってるように鳴海さんには探求心とか冒険心が足りません!」
「…だからと言ってこれを食べる理由にはならないだろう」


 彼らは壮大な話をしていた。


「ですから、鮭やシーチキンマヨネーズ、梅、鰹なんて、どのメーカーも変わりゃしませんよ。ここは“春の新作☆初恋フレッシュ・ベリーベリーいちご”に挑戦すべきです!」

 病院に隣接したコンビニにて、一組の男女が言い争っている。
 看護婦に怒られるのは俺だと頭を抱えながら、引きずられてきた男の名を鳴海歩、今高らかに選手宣誓を言うかのような声をあげている女の名を結崎ひよのという。
 ひよのはズビシと指差した先は、寒さが堪えるフリーザーの中。
 良くおにぎりが十数種類も並ぶ中で一番の“ゲテモノ”を探し出すものだ。
 そういった目ざとい先輩で、そのお陰で助かったと言えなくも無い時が少なからずあったが、自身に被害が及ぶこともそれ以上にあり、どうにも勘弁して欲しいと思う歩はどう言いくるめればこの場を逃げ切れるかとほんの一瞬思案した。

「…あんたが言っているのがジュースなら分かる。だがこれはどうみたってパリパリの有明海産の海苔を使用したおにぎりだ。とても美味そうには見えない。そして俺は挑戦するのが面白いとは思えない。よって俺は買わない。そもそも、そんないかにも「食べる」ことよりも「笑い」を重視しているようなおりぎりは地球に良くない。地球上には今日も飢えで死んでいっている子供たちがいるというのに」
 一応の理路整然と言い放った歩はちらりとそのおにぎりを見た。折角の有明海産海苔がラップの下で赤と紫の見事なコラボレーション色に染まっている。海苔の黒さが負けている時点でどこかおかしい。そのおにぎりのパッケージにはピンクの濃さが激しい、丸字で“春の新作☆初恋フレッシュ・ベリーベリーいちご”と書かれている。いちごとブルーベリーのイラストが描かれており、確かに“ベリーベリー”ではあった。だからといって歩に1円の得も無いが。

「むっ、いいですか。今鳴海さんは休養中ですね?カノンさんに撃たれた傷も快方に向かっているとはいえ、まだ安静にしてなきゃいけません。しかしそんな鳴海さんに新たな敵が!そう!火澄さんです!姿を現さない名前だけの敵。慎重にいかなければなりませんね。しかしっ、そう人間緊張を保っていられる筈がありません。いつか糸が切れたようになってしまいます。戦いが終わった後のカノンさんがそうだったようですね。私は鳴海さんにそうはなって欲しくないんです」
 涙でもそろそろ出そうかといった勢いだ。
 一気に力説したひよのに歩は大げさな溜息を吐いた。

「何が言いたい」
「もちろん、“春の新作☆初恋フレッシュ・ベリーベリーいちご”を食べて、そんなガッチガチでドッキドキの鳴海さんを緊張から開放して差し上げようとっ」
「いらない緊張してない」

 多少の緊張はしているとしても、もちろんそんな事を口に出すはずはない。言ったが最後、買わされるに決まっているからだ。
 全く、どうしても、というならば自分で買えばいいものを、前に買った“ちゃんこ風味ホット缶スープ「さばおり」”で懲りたのかそうはしようとしない。きっと恐らく彼女は都市伝説となった飲み物や食べ物も把握しているであろう。歩は、いつかは自滅するだろうが好奇心旺盛に旺盛な彼女にいい加減うんざりとしていた。ねーさんに言われた「いっそ彼女にしちゃえば?」という発言に対するねーさんの表情曰く「酷い」返答も、こういった所から起因していた。

「それに、ここで私たちが買わなければそれこそこのおにぎりはゴミ箱行きかもしれません。と、いうことは余計に地球の恵みに反します。出しているメーカーにも失礼です」
「資本主義だから仕方ない」
「仕方がないことはありません。今鳴海さんが買えば全てが上手く収まりますよ!ああっ、もうこんな時間。看護婦さんが見回りに来る時間ですよ、鳴海さん!」

 だったら何も買わずにただ穏便に帰らせてくれ、と願う歩だが、そこは素直に聞き入れてくれるはずもない。この先輩はとにかく強情で自分の考えを貫き通すのだ。
 ひよのがお菓子コーナーに目をやる隙に、歩は溜息を吐きながらちらりと“春の新作☆初恋フレッシュ・ベリーベリーいちご”を見た。



 105円(税込)で、黙るなら、買ってもいいかもしれない。
 またも吐かれる溜息がフリーザーの前で散る。

 値段を見た歩を目撃されていた時点で、歩の敗北は決定した。

「鳴海さんも何だかんだと言いながら興味を持ったんですねっ。ささっ、元気良くレジへ!」






 歩の財布がひよのから強奪され、コンビニおにぎりとチョコレート菓子がひよのの手中に入るのは、その1分後だった。






 12巻が未だ出ていない今。11巻の丁度後のイメージで書きました。も、もしあのまますぐに火澄と会うならどうしよう。本誌を読んでいない身としては確認する術がございません。
 ま…、パラレルで、いっか…。
 「さばおり」ネタですが、小説版スパイラル3巻に因ります。
 今回のプチ目標はやたらに改行をしない、だったのですが。……勉強になりました…。
 「歩はコンビニが嫌いだ」と思う理由はもう一つ。スーパーの方が絶対に安いのにわざわざ定価で買わなくてもいいだろうという主婦的感覚が備わってそう。でも清隆兄貴は好きそうだよな…新商品チェックとか。まどかさんは歩が居ないとコンビニで全部済ましちゃいそうなイメージが。


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