あなたの将来の夢を300字以上400字以内で具体的に書きなさい。





      『将来』






「ねぇ水野」
 小島は担任が出て行くと同時に原稿用紙をにらんで言った。
「1行で終わった」
 小島とは対照的に水野は原稿用紙を机の上に放り、椅子の背にもたれた。
「奇遇だな、俺もだ」
 ぎ、と騒がしい教室の中で椅子が悲鳴を上げる。誰かが開けた窓から吹き込む風は、強い。


「じゃあせーので言ってみる?」
「いいぜ?」
「せーの」

  ――「「サッカー選手。」」――

 これ以上なく具体的だろうとひねくれて思う。二人、苦笑するしかなかった。

 教室内の周りからは保母さんだとか、インテリアデザイナーだとか、大工さんだとか色々な声が挙がっていた。しかし、中学生で具体的な職業と結びつく人間はそれでも少ないのか、友達と一緒に住むだとか、のんびりと暮らすだとか、中にはドラゴンボールを探す旅に出るだとか、職よりもしたいことを重視した答えが多かった。

「…行くか」
 水野は緑の線のマス目の紙を几帳面に真ん中で折ると鞄に仕舞った。
 小島は先に用意ができており、「おうっ」と不敵な笑顔で答えた。



 小島は手さげ鞄をぐるぐると回して歩いた。
「遠心力〜」
「小島、危ないからやめろ」
 呆れ顔の水野に小島はそう言われるとやりたくなるのよね、と笑んだ。
 帰宅しようとする生徒が多い中、確かに水野の言っていることは正しいのだが、小島は器用に人を避けていく。
「あのさ、水野」
 もう1度だけぐるりと回した後、手を止めた。足はサッカー部に向かったままだ。
「私、この前留学の話したよね」
「…あぁ」
 忘れるわけがない。あの眼差し。
 強くなった、と思った。
 もともと強かった彼女が、精神的に大きく成長していた。
 同時に焦りもしたが…水野本人、自身が成長していないと思ったから。いや、成長していないわけではない。彼女の伸びが早すぎるのだ、と水野は思う。もっとも、それは水野の言い訳でもあったが。
「ホームスティ先、探したの」
 小島は手帳から写真を取り出し、水野に見せた。初老の夫婦が優しげに笑顔をこちらに見せていた。男性の方は女性の肩に手を乗せており、女性はそれに手を添えている。
「いいでしょ。手紙も入っててね、歓迎するって言ってくれたの。Welcome!って」
 小島がまぶしいと思った。
「英語話せるのか?」
 中学生の英語で日常会話ができるとは思えなかった。
「失礼ね、私英語の成績はいいのよ」
 口をとがらせる小島に、ああこいつはこういう奴だった、と嬉しくなる。
「この前のテストは俺に負けてたよな」
「うっわ、ひどい!たかが3点でしょ!誤差よ誤差!」
 高度な争いである。
 水野はわざと小島の目を見るようにして言った。
「知ってるか?サッカーじゃ一人で3点取ったらハットトリックっていうんだぜ」
 サッカー少女小島有希に何を説明するか水野竜也。
「…っ、知ってるわよっ、単位が違うのよ、そうよ、1点の重みが違うの!選挙でもそんな1票の重みってやつがどうのって昨日習ったでしょ!」
 水野は同じ目線になるように少しかがみながらお怒りの彼女をさっきとは違ったまぶしさで見た。
「小島」
 唐突に水野は小島を制すように名を呼んだ。
「良かったな」

 微笑む。
 小島はそれには答えず、口の端をきゅっと上げて前を見すえた。
 頑張れも頑張るも言いたくない。
 お互い頑張るのは当たり前の人間だから。


 それでも、言いたくなった。

  ――「「頑張ろ。」」――

 本日2度目の合唱が、ざわつく校舎の昇降口で、かき消されていった。






 小島有希提出作文より抜粋。
「(前略)…
 等、とにかくLリーグだけでなく、海外でもプロサッカー選手として活躍したいと思っています。技術的に目標としている人はたくさんいますが、手短に同じクラスの水野君には絶対差をつけて勝ちたいと思います。」(344字)


 水野竜也提出作文より抜粋。
「(前略)…
 ・日本代表としてW杯出場、優勝。
 ・高校、プロでも10番はキープ。
 ・小島に負けない。」(309字)




















 必要以上に名前を呼ぶのは意図的というか、趣味です。<ちょっと待て
 お互い支えあって成長して行って下さい。





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