用意するのはプレゼント。

着ていくのは先輩に貰ったコート。

待ち合わせはお互いの寮の中間点にある公園。

時間は夕方の4時。






+1月22日+






先輩と離れて9ヶ月。そして俺が卒業するまで3ヶ月。
そんな日が、三上さんの誕生日だった。



「…竹巳なんでいるの?」
寮の自室で宿題をやっていたらコンビニから帰ってきた藤代が目を丸くして入り口に立っている。
「…いちゃおかしい?」
ノートに走らせていたペンを止めて、振り返る。
扉を開けたまま呆然と立っている藤代の手にはふくれてパンパンのコンビニのロゴ入り袋。
「…お前、また寒いのにアイス買って来ただろ?」
見えた中身に顔を顰めたが、そんな事は関係無い様に藤代が食ってかかってきた。
「だって今日三上先輩の誕生日だろ!?」
…どうでも良いけど扉閉めろよ。せっかく部屋暖まってたのに一気に暖気逃げていったじゃん。
「誠二、扉位閉めろよ。」
「そんな事どうでも良いのっ!…何?喧嘩?…もしかして別れたの!?」
詰め寄ってくる藤代に押されて笠井は何故か壁際に追いつめられる。
廊下を通り掛かった同級生が逃げる様に部屋の前を通り過ぎていく。
「…勝手に喧嘩させるな別れさすな!!」
「じゃあどうしてさ!?」
藤代の顔色を見て笠井はため息をつく。どうやら理由を話さない限りこの勢いは止まらないらしい。
「…三上さん今日練習試合だって。お前も渋沢先輩から聞いてない?」
「…………あ。」
本当に今思い出した様に藤代の動きが止まる。
「思い出した?だったら扉閉めて欲しいんだけど。」
後ろを指さすと誠二も慌てた様に扉を閉める。
その間に笠井はコンビニの袋から中身を取り出し、アイスやジュースを部屋に備え付けの冷蔵庫に直した。



「…って事は今日部活休みにしたの無駄だった?」
「誠二が休みにさせたの?…道理で仲木が困ってたんだな。」
自分達の跡を継いで、こないだ部長に就任した仲木が困った顔で『藤代キャプテンをどうにかしてください〜。』と頼み込んできた。
休み自体に文句は無い様だが、引退しているのに相変わらず藤代は部活にちょっかいをかけてくるらしい。
「あまり仲木を困らすなよ?」
コタツを2人で囲みながら片方は時期外れのアイスを、もう片方はスナック菓子を摘みながら会話をする。
「だって今日三上先輩の誕生日だったし…。」
部活あったら竹巳そっち行くでしょ?と聞いてくる藤代の頭にしょげた犬の耳が見えた笠井は思わずため息が出た。
「…高等部の練習がある事を考えなよ。」
「………ごめんね。」
耳は相変わらず垂れている。
それにため息をもう1度つきそうになった笠井は慌ててそれを飲み込み、笑顔を作る。
「とりあえずありがと。…今日遅くなるからそのフォローよろしくね。」
そう言うと藤代はまかせて!と満面の笑顔で言ってきた。
…とりあえず笠井は苦笑いをするしかなかった。






そんな事があって寮を出たのがちょうど3時20分の事だった。
約束の場所は中等部と高等部の中間地点にある公園。
徒歩5分の場所に笠井が着いた時には、当然の様に三上の姿はまだなかった。
待ち合わせの時間より余裕を持ちすぎて出てしまうのが笠井の癖だった。
そして約束の時間通りに来た三上はいつも怒る。

−なんの為の待ち合わせ時間だよ!

その事を思い出し笠井の顔に笑みが浮かぶ。それは顔を手で覆う事でごまかすが。
だってきっと三上は知らない。
この待っている時間がとても幸せだと言う事を。
腕にしていた時計に目を落とす。3時46分。そろそろだ。
顔は上げない。そんな事をしなくたって三上がどうの様に来るのかなんて分かるから。
−まず三上さんはあの歩道を渡ってくる。
信号が青になると同時に音楽がなり出す。
−次に俺の姿を見つける。
そんなに大きくない公園に、砂の擦れる音が響いた。
−そして。
「…竹巳!お前また時間より早く来たな!?」
その声に顔を上げるとスポーツバックを肩から下げた三上が、ジャージ姿で走り寄って来ていた。
「三上さんお誕生日おめでとうございます。」
言葉を続けられる前に先手を打つ。カバンの中に入れておいたプレゼントを押しつける形で渡した。
「…サンキュ。」
何だか釈然としない顔で三上が受け取る。それでも包みを開けると一転して笑顔になったが。
中に入っていたのは深緑の色のマフラー。三上の普段着ているコートに合わせた物だ。
「気に入りました?」
「あぁ。ありがとな。」
そう言うとサッと笠井の唇に軽いキスを与える。笠井が顔を真っ赤にしている間に隣に腰をおろした。
「先輩、試合帰りなんですか?」
「…あぁ、試合長引いたんだよ。」
カバンの中にマフラーと包装紙を大事に直す。そしてスポーツバックを漁るとコーヒーの缶を2つ出した。
「…ん。」
それだけ言って1本を笠井に差し出す。
お礼を言って笠井が受け取ってから、三上も缶を開けた。
「お前さぁ、冷え性の癖して何でいっつも先来てるんだよ。」
そんなに手ぇ真っ赤にして。と指先が赤くなってる笠井の手をつかむ。
「楽しいんですよ?待ってるの。」
「…俺には良く分かんないけどね。」
肩を竦めて三上は缶コーヒーに口をつける。…笠井の手を握ったまま。
「…………先輩。」
「ん?」
「缶、開けられないんですけど。」
「んー。…暫く左手缶で暖めておけ。」
右手は俺が暖めてやる、と言って手を離してくれない。
とりあえず三上が満足するまで、公園には真っ赤な顔をした笠井と、至極幸せそうな三上がいた。






さすがにずっとあのまま誕生日を終わらせる筈もなく、1度高等部の寮に寄ってから2人は街に出かけた。
もちろん、普段着に着替えた三上は笠井に貰ったマフラーを早速着けていたが。
三上が興味を持っていた映画を見て、2人が前に気に入った場所で食事を取って。
気付いた時にはもう周りは暗くなっていた。
「先輩、高校の方どうですか?」
「どうって…特に変わりはねぇよ。面子が変わる訳でもねぇし。」
2人は人通りの少ない道を歩きながら、会話を続ける。もちろん、手は繋いだままだ。
「サッカーは?…あ、今日どうでした?」
「お前な。聞くの遅ぇよ。…もちろん勝ったよ。」
大して興味が無さそうに答える三上に、笠井が質問を重ねる。
「練習やっぱつらいですか?」
「…竹巳。俺といるんだから他の話題探せ。」
昔よりも差の開いた三上を見上げ、笠井がだって…、と言葉を続けた。
「4月から俺も高等部行くから不安なんですよ。」
「何が?」
「きっと俺また2軍からのスタートだろうし、先輩も誠二も渋沢先輩も皆1軍でしょう?…だから。」
置いていかれるみたいで…。
そう呟いた笠井に呆れた様な表情を出し、三上はグイッと手を引っ張った。
重力によって笠井が三上の腕の中に引き込まれる。
「わぁっ!」
「…馬鹿だなぁ、お前。」
へ?と言う表情の笠井にキスをする。
腕の中の笠井は最初驚いた様に体を引かせたが、三上は自分の腕で引き寄せるとキスを深い物した。
かさね直す度に笠井の口から甘い声が漏れ、それに気を良くした三上がさらに行為を続ける。
そして三上が満足するまで笠井を堪能した時には、笠井の息はすっかり上がっていた。
「待ってるから。」
「…え?」
一瞬反応が遅れた笠井が聞き直すと、三上は相変わらず愛しい恋人を腕の中に納めたまま言った。
「待ってるから。お前が隣に来るまで。…だから早く来い。」
オーケイ?と聞いて顔を覗くと嬉しそうな笠井が笑っていた。
「…はい。」






彼の誕生日に上げた物。

マフラーと俺の気持ち。

彼の誕生日に貰った物。

彼の気持ちと約束。










ハピバースディ三上先輩!
今いち祝ってるかどうか謎なSSだけど私は祝ってるんです!

そして相変わらずイミが通ってないとかそこら辺は無視の方向で…。

…って言うか間にあって良かった(汗)。









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