その視線の強さに、恋い焦がれた。







+昨日と今日と+







見上げた空の隅っこ、学校の屋上に人影を見つけたのは、サッカー部に諦めかけた頃。

素質はあるのに、最初から諦めているサッカー部の面々に苛立ち、でも何も行動に移さない自分が1番嫌だった。

遠目から見て、誰かまでは確認できないけど腰まである長い髪と、真っ白なセーラー服が空に溶けていた。

彼女が見ているのはココだと、すぐに分かった。

その真っ直ぐな視線と、分かる筈が無いけど。でも視線があったと分かった。

彼女のその視線に、責められている気がした。




−そこにいる癖に

 そこに立てる癖に

 何で何もしない?

 あんたには実力があるんでしょ?

 今の現状を変えられるだけの力が




「…タツボン、何してるん?」

「え…?」

声を掛けられて視線を地上に降ろすと、そこにいたのはこのサッカー部で唯一自分と張り合える実力を持つシゲ。

「休憩、入っとるで。」

「あ……。」

その言葉に周囲に視線を巡らす。部員は各々自由な場所でくつろいでいた。

足下で止めていたボールを蹴り上げて、先に行くシゲの後に続く。

木の小陰に入って座り込む。

周りにいるのは、1年の連中。決して運動をして掻いた訳じゃない汗を拭いながら、雑談をしている。

顧問に配られたタオルを首に掛け、ドリンクを飲む。

「……なぁ、タツボン。」

「ん?」

「俺、サッカー部辞めるわ。つまらへんし。」

「あっそ。」

シゲは何でも無い様に言うし、俺も何でも無い様に受け取る。

だってこの場所にシゲを引きつける物は何もなかった。


屋上を見上げると、彼女の姿は消えていた。




シゲがいなくなった後のサッカー部。

そこで俺はいつも空を見上げていた。

彼女の責めてくる視線と、相変わらず変化のないサッカー部と。

それでも俺は何もしなかった。




クラス替えをして、彼女と同じクラスになった。

コジマユキ

それが彼女の名前。




風祭が入ってきてから俺は変わった。

何も行動に移さないで、ただ現状に諦めていただけの俺は、先輩を追い出し、サッカー部を新しく作った。

それは風祭の影響だと思う。


休憩中、屋上を見上げると彼女がいた。

相変わらず腰まである長い髪と真っ白なセーラー服が、青い空に映えて綺麗だった。

彼女の視線が、俺に訴えかけてくる。




−そこに行きたい

 そこで動きたい

 そこでサッカーがしたい




「…水野君?」

声を掛けられて振り向くと肩にカバンを掛けた風祭が立っていた。

武蔵森戦で足を怪我したから、俺が部活を休む様に言っている。

「何?」

「何見てるの?」

タオルを渡しながら風祭が聞いてくる。

振り返って見ると、屋上から彼女は消えている。

「……あのさ。」

「うん。」

「…………やっぱいいよ。それよりも、早く帰れよ?」

「あぁ、うん。ごめんね、心配かけて。」

目が泳いでいる。…分かりやすい奴だよな、本当に。

「別に。気を付けて帰れよ。」




もう1度空を見上げて。

この後練習が終わったらシゲと高井と森長あたりを誘って風祭の様子を見に行って。




明日、彼女に会いに行こうと思った。











有希ちゃんB.D.企画前編。…前編ですからね!

『昨日と今日と』はそのまんまの意味じゃなくて…過去と現在って感じの意味です。


ミズユキMy基本。
2人はお互いの『その視線に惹かれた』だと思っていますんで(笑。
って言うかこの話では会話もしていませんが(汗。






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