時計


壊れかけた時計があった。
いつも夕方になるとこうもりが音を立てずに飛んでいた。

キィ、キィ・・・。
静かなその道は、私の自転車の音以外何も聞こえない。

私はその時計が好きだった。
川沿いにある道の反対側の駐車場の壁に付いている時計。
短針が全く動かない。
いつも、六時のまま。
長針は、正確な時間を毎日刻んでいた。
分針だけでも充分何時かが判った。

その川沿いの道は、中学校への通学路の 一つ横の道だったのも関わらず。
高校生になるまで知らなかった。
通った事がなかった。

高校生になって。
彼氏が出来て。
彼氏のお家に行くようになってからその道を知った。
大好きな時計だった。
学校からの帰り道、寄り道して通るくらい。
大好きだった。




彼氏から、別れを告げられた。
泣く事も出来ずにただ呆然と、とぼとぼ帰っていると。

ガシャン!!

音に驚いて、目をみはった。
駐車場が、壊されていた。
時計が、壊されていた。
私は、その光景に何も言えず。


自分の所有物ではない、そう思い知らされる。

彼氏もそうだった。

自分のモノじゃなかった。



――――――欲しかったの?
そうじゃない、ただ、そこで、いつものように、私の傍で・・・。
居てくれるだけで良かったのに。

私は堰を切ったように泣き出した。





時計は、もうアトカタもなく、 そして駐車場はマンションになっていた。



私は、新しい恋をしている。





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