バイバイ




「バイバイ」


告げられた言葉。

「恭平っ…もう、ずっと、バイバイって意味じゃないよね!?」
自分でも驚く程大声で叫ぶ…本当に、もう飽きられた、 と思ったから。

「別に深い意味じゃない」
冷ややかに、否定する。と、
「明日会う約束やめにしよう。このままだと俺、会いたくないから」
又、くるりと背を向け階段を降りてく。
「…や…」
嫌だと言っても戻って来てはくれない。
「やぁ……」

涙が出て来そうになるけど必死で止めた。

泣いて戻ってきてくれてもあんまり嬉しくないから。
友達に「どうしたの?」と聞かれて恭平を悪者にしたくないから。
私が悪いのに、追いかけて一言「ごめんなさい」 を言えなかったから。


―――言った後、もし恭平が許してくれたら思いっ切り泣こう。
許してくれなかったら?―――それはホントの 「バイバイ」になる。

友達と先輩達との約束に遅れそうになった私は、 慌ただしくその場から走った。




あ、佳枝ちゃんだ。
自分の見慣れた教室の前に友達の佳枝ちゃんが 待っていてくれていた。
先輩の里見さんも一緒だ。
他にも大勢待っていてくれていた…あちゃー…遅刻だったかな?

「あ、遅かったね〜、恭平くんは?」

ズキン。

「…あ…先、帰っ、ちゃ、った、よ…」


恭平に「友達に心配かけたくないんなら普段通り振る舞えよ、 いけるか?」
って言われたから頑張ってみてるけど、ちょっと無理かも…。
無理矢理な作り笑顔をしていたのかもしれない。

里見先輩が理由を知ってか知らずか分からないけれど、 私の頭をぽんって叩いてけれる。



「〜っっ里見さんっ、愛してるわ〜っ」
「フッフッフッ、めぐちゃんげっとぉ〜♪」
先輩に抱きついたお陰で、笑えた。

先輩は「元気出せ」って言ってるみたいに背中を二回叩いて
もう少しだけ力を込めて抱き締めてくれた。

100%楽しんだわけでも笑えたわけでもないけど、 皆私が好きでここに居てくれてるって、
少しはそうウヌボレてもいいかなって、思った。







帰り道、ちょっとだけ名残惜しく、でも恭平と連絡取らなきゃな。
そう思っていた、丁度その頃だった。



「追いついたっ」



―――え?
振り向くと、見慣れた筈の自分の彼氏が 自転車に乗って私を見ていた。

「…なんで…」
「ん?ちょっと遅いなって思って」
「だってバイバイって言ってから、一時間半以上経ってるよ?!」
「一回家帰ってから来た」


ナルホド…って、なんで…?
私に会いたくないんじゃなかったの?

「じゃ、私たち違う道で帰るね」
「またね、めぐちゃん」
「俺、コイツら送ってくわ〜、んじゃあな」


な……。
気をつかってくれたのか、先輩たちとはすぐに 違う道で別れてしまった。
あの後、私は散々騒いだんだ。
ストレス解消でもヤケでも何でもなく、騒げた。
それは凄く…とまではいかなくても楽しかった。
その事があえて恭平に話しかけ辛かった。
私は気まずい中、声をかけようかどうか、かなり迷っていた。


「きょ、恭平…」

「俺ら、名前で呼ぶようになってどれくらい経ったっけ?」


突然。
ほぼ同時に。
信号で止まって。
私の目をいつものように真っ直ぐに見つめる恭平。
思考回路が低下する。




「えっと…三ヶ月…、かな…」

その目が怖くて、いつものように微笑み返せずに目をそらした。

「もう帰りたい?」

ふるふるふる!!
思いっ切り、首を振る。
「そんなんじゃ!……そんなんじゃ、ないよ…。」


目をそらし続ける。
バイバイって、言われるのかな。
言われるよね…。
これだけ身勝手にしている私をまだ好きなわけ、ないじゃない…。


「良かった」





…?

…どうして?

どうしてそんなに優しい笑顔をくれるの?
胸がきゅうんって、つかまれる。
当社比三倍の鼓動の速さで200m全力疾走よりもドキドキする。
私が好きになった理由のその笑顔をくれるなんて、ズルいよ…。



「時間ある?」
「まぁ、電話入れたら平気だけど」

腕にはめた時計を見る。
まだお父さん帰ってない時間だろうし、大丈夫かな。
今日遅くなるって言っておいたし。


「んじゃ、公園行こ」
「うん…」

やっぱり、バイバイ…かな。
でもどこかで絶対言わないと確信があるのは何故だろう。
色んな思いが渦まいて、胸が痛くなった。







公園のベンチ。
恭平が砂を払ってくれる。

「ありがと…」


二人とも、無言。
何を言っていいのか分からない。


「ごめんなさい…」
「……俺ら、慣れ過ぎてたよな。安心しきってたな、お互い。」
「…うん……。」



「別れよう」



…体中から紐がひっこ抜かれた、そんな感覚。


「きょ…」

「って…言ったら、別れられる?」



……。

苦笑する恭平。



「手、つないでいよう」
「私たち、別れる別れないの話してるんじゃなかったっけ?」
「安心するから別にいいじゃん」


手が差し出される。
…怖いよ…。
本当にその手を取っていいの?


「嫌?」

私はまた思いっ切り首を振ると、ゆっくりと、 震えながら右手を恭平の手に乗せた。
そのあたたかさは罪になるくらい私を安心させた。

「別れよう」

その言葉が私の頭の中にまた蘇ってきた。
…私は思わず恭平に抱きついて泣いていた。

「っく…ごめんなさ…い…っ」

里見先輩と同じように、でももっとあたたかく、 恭平は私の背中を二回叩いてくれる。

「ごめっ…泣いたらズルいよね…」
「うん」


即答。


「こんなに泣いてるめぐみを放っとける筈ねーよ。」
「…きょーへー…今、めぐみって、言った?」

一瞬、泣いている事も忘れたくらい、驚いた。
もう、一生呼んでくれないと思ってた…。

「あぁ、今日初めてかな」
「ん…」


恭平は私の髪をなでながら、こう言った。

「慣れ過ぎてた…これって良い事でも悪い事でもあるけど…。
お互い、傍にいるのが当たり前で、絶対別れないって、 思ってて…。
…どうしよっか」


カラオケ行くか相談している時のように軽く、 そして私を覗き込んだ。
私は恭平の膝の上から降りて横に座り直した。
手は、繋ぎ直して。


「私が恭平に悪い事したから恭平が先に言うべきだと思う」

もう、泣いていなかった。

「私が嫌って言える権利があるなら」

とだけ付け加えた。

「もちろん」

恭平は私が泣いていない事を確認した。
私は恭平の真夏の頃より伸びた前髪を見つめている。
恭平が繋いでいる手の上に、もう片方の手を重ねた。
すぐにでも「離れるのは嫌だ」と言いたかった。
抱きついて強く抱き締めたかった。
でもそんな事言えるはずもなかった。
出来るはずもなかった。
どれくらい時間が経ったのだろう。
恭平が口を開いた。


「issyoni,iyou」



――――――一緒に、居よう………。

私は恭平の一番近くに居たかった。

だから抱きつこうとしたんだけど、出来なかった。

なぜなら、恭平が私を抱き寄せたからだ。

「明日、どこ行こっか」

その何気ない一言に、泣きそうになって、でもこう言った。




「泣いてないもん」







恭平が微笑んだ。










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