「100」


「麻衣の好きなとこ、100コ言えるよ」

急に私が言ったのだ。
「私のどこが好きなの?!」
困らせてみたかったのだ。いつも、にこにことしている彼を。
きっかけは些細なこと。
全部が好きという拓海の言葉が信じれなかったから。
うぬぼれていても不安になるときだって、贅沢にもあるのだ。


「まず、そういう意地っ張りなとこ」


うぐっ…。言葉につまる。さらっとそういう風にいうのが拓海だ。
拓海の部屋の勉強机に座っていた私はそちらを向いた。
拓海はまたベッドに座り直してこちらを見ながらにこにこと続けた。

「そーやって真っ赤になるとこ」
「む…」
「ふくれるとこ」
「あ、バカにしてるでしょ」
「してないよ。ふくれると耳に髪をかける癖」
自分自身あまり気にしない癖を言った。

「も、拓海っ」
「俺の名前を呼んでくれるとこ」
「本当に好きなところ?」
「うん、俺麻衣に名前呼ばれんの好きだから。6個目、麻衣の声」

拓海の右手が小指から折り返した。
私はというと、拓海の椅子から慌てて立ち上がった。

「大きい瞳、俺をまっすぐに見てくれるとこ、目が合ったら笑ってくれるとこ。
 時々照れてななめ下を見る所」

にこにこ。
とがめる隙もなく笑顔で返される。

「もう10個だね、100個なんて余裕かな」

……。

「…負けたわよ」

このまま言われ続けたら恥ずかしくてかなわない。
拓海をののしる言葉が上手く出てこなくて、ため息をついた。
この場合、バカも王子もフェミニストもどれもしっくりこない。

ばふ、と音を乱暴に立てて拓海のベッドに座った。
なんだか怒るとは違う。
どうしてか、拓海の傍に行ってる。
恥ずかしいし悔しいから目は合わせてやんない。



「恥ずかしがりやさんなとこ」
「…もういい、私が悪かった」
ここまでくると苦笑するしかない。

「これから笑顔編なんだけど?」
「ヤメテクダサイ…」


こてん、と拓海に寄りかかる。

完全に負けた、と思った。

「麻衣?」

後ろから、抱きしめてくれた。

「あったかい…ありがとね、拓海」
わがままな私の言うことに付き合ってくれて。

「俺の腕の中だと、素直に話してくれるとこ」
「…そかな」
「うん」
「好きだよー」
「俺も」
「あ、ホントだ」

好きって、素直に話してる。


私は拓海の手を握って、こう言った。





「私、拓海の好きなとこ100コ言えるよ」










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