紫の章。〜似ている色の意地〜 |
空を見上げると、そろそろ陽が落ちて赤くなる、という時だった。 「せや嬢ちゃん、付きおーて」 麻衣子は拒絶する暇もなく。 「えっ、ちょっ、佐藤!?」 サッカー部は女子も男子も終了した所。 シゲは麻衣子の手を引いて思いっきり走っていた。 着いた先はグラウンドの真ん中。 「…もうっ…何よ!?」 ハードな練習後にシゲのペースでダッシュさせられたのだ。 元々純粋にサッカーというものをやりたくて入部したのではない。 体力も有希程にはなく、疲れさせた張本人を睨んだ。 「そんなにらまんとったってぇな。」 シゲは苦笑しつつ、急に仰向けになって寝転がった。 「……何してるのよ」 横に寝ている人間がいる、というのは踏んでしまいそうな気分になり、居心地悪くしゃがみ込む。 「みてみぃやー。ぜーんぶ真っ赤やで」 その問には答えず、彼は周りを見渡した。 赤だった。 木も、校舎も、麻衣子も、シゲも。 髪に砂がついて不快になるだろうことは予想されたが。 練習で疲れていたせいかもしれない――麻衣子はいつしかシゲの横に寝転がっていた。 「赤ね…ああ、あのあたりは赤紫だけれど」 風が吹いた。 「…あなた、赤に似てますわ」 金色に髪のせいで黄色のイメージだったが、彼の奔放な振る舞いには赤が似合う。 「なら、お嬢は赤紫やなぁ」 まっすぐな瞳のせいで赤のイメージだったが、彼女の凛とした表情で高貴な紫が加わった。 360度が赤と紫の世界――そう、たとえ目を閉ざしていたとしても。 どんどんと紫の世界に変わってゆく。 その刹那を二人で過ごしている奇妙さ。 そして心地良さ。 「ねぇ」 二人は決して、そしてこっそり意地を張って目を合わさなかったが。 「私、夕陽、好きですわ」 どうしようもなく夕陽のように暖かい色が、心の中に広がっていった。 |