うん、だってそれが一番嬉しかったんだよ。




　　tiny　present〜ｐ．ｍ．〜




別れ際に皆に誕生日の歌を歌ってもらって。
女子部からはアンブロの靴下、男子からは同じくアンブロのシューズ。

皆で私だけに内緒で買いに行ったそうだ。
そういうのって、女の子っぽいけど、ちょっといいなって思う。
嬉しいと思う。
ただ、純粋にこのメンバーに祝ってもらえることが。


にしても。
私はアンブロしかないのかとアンブロ仮面を名乗っていたのを棚に上げ思う。


でも靴下は鮮やかな青色でとても気に入ったし。
ちょうど欲しいと言っていたシューズは赤のラインが凄くかっこいい。
やっぱりアンブロはかっこいいし可愛い。


皆にじゃあねと言って別れて一人で帰って家族でまた歌ってもらって。
ありがとうを一杯言ってお母さんの手作りのハンバーグとケーキを食べて。

お兄ちゃんからも電話がかかってきて。
お父さんとお母さんからのワンピースのプレゼントにお兄ちゃんから届いた可愛いバッグ。
両方薄い水色で合わせたの？と聞いたら偶然だと返された。
似たもの親子で笑っちゃう。


お風呂入って髪乾かしてまだ9時だけどパジャマに着替えて。
結局今日を振り返ってみて、楽しかった、と思った。
うん、今日誕生日で良かったかもしれない。
ほかほかの体で気分までほかほか。



そんな時、携帯が鳴った。



表示されている名前は、水野竜也。


「もしもし」
「あー…小島？」

出ると、水野の声が上ずってた。


「当たり前じゃない、私の携帯に誰が出るのよ。で、何？」
「えーと、うん、あれだ。お前今部屋か？」
「そうだけど？何、変なこと聞いて」
「窓から外見てみろ」
「命令形かいな」


水野がそこで立ってるのだろうと思った。
時たまこういう手の込んだ発言と行動をしてくれる。
まぁ王子だからな。


「…あれ？何？何もないよ」

予想外に何もない。
窓を乗り出して、ちょっとパジャマじゃ冷えるとか思いながら。
きょろきょろと周りを見ても猫もいない。



「ひっかかった。」
…何？


「今、俺を探した？」

「う」
「俺が来てると思っただろ」
「…悔しい」


まだエイプリルフールですか水野さん！



電話越しでやたら押し殺した笑い声が聞こえる。

「まぁまぁ。今度は玄関行ってみろよ、今度は居るから」
私、きょとんとなる。
2回に分けて騙されたのか。
殴ってやる！と自分もお互い様なことをしておいてこぶしを握る。
慌ててパジャマから服に着替えて玄関を開ける。


「よ」
「よ」

笑顔でこぶしを水野の顔面に向ける。

「あぶね」
さらりと受け止められる。
しかもその右手を受け取った水野の左手がつかむ。


「離せ〜セクハラ〜」
「今日そればっかだな」

そう言うと水野はそのまま私を引っ張った。
なんだかいつもより距離が近い。

「マイブームなのよほっといてよ」
言葉は照れ隠しめいた響きで。

覆われた右手は水野の手の中のままだ。
そのまま、手をにぎった。
水野の手はお風呂上りの私よりちょっと冷たくて。


「これ」

水野はあいている方の手でポケットを探り、小さなぬいぐるみをくれた。
うさぎのキャラクターのぬいぐるみで、私がUFOキャッチャーの前で可愛いと言ったそのものだった。

「誕生日、おめでと」
もしかして自分でとったんだろうか。
それなら笑えちゃうよ水野くん。

「あ、うん。ありがと」
手の温度が、同じになる。

「うん、それだけ」
なんか、嬉しい。

「えと、じゃ」

「あ、あのさ、誕生日ケーキ、チーズケーキだったの。食べてく？」
水野、好きじゃん、チーズケーキ、とぼそぼそと言った。

「いや、こんな時間に親御さんに悪いし、帰る」

「そか」

「うん」

手をそっと離す。
触れてる部分がなくなってもたれていた壁がなくなったように不安定な気分になる。
水野が来てから初めて目を合わせる。



「小島がもし明日生まれてたら同じクラスで二人サッカー部やってなかったかもな」



水野は、へたくそな笑顔で言った。

「今日産んでくれた親御さんに感謝だな〜」
慣れない冗談を言うように笑う。
そっと、手を離したときのように、そっと、頬に水野の顔が近付いた。



「誕生日おめでとって最後に言ったの、きっと俺だな」




頬と頬が触れる。



「じゃあな」
走って去っていく水野竜也(14)。
頬に残った感触は唇。


「もうっ」
私は水野の駆けてった方に言った。


「せくはらー」






今日産んでくれてありがとう、お母さん。
お陰で水野と出会えて、サッカーを諦めないですんだ。
今日じゃなかったらこんな幸せな気分にならなかった。



たくさんのおめでとうをありがとう。

部屋で小さな小さなうさぎを抱きしめた。