| 021.ひとり 「人という字は、人が支えあっている象形文字から…」 黒板を背に語る先生の声。 心地いい響きのチョークの音が止んで眠気が襲ってくる。 ふーん、そなんだ。 「人はひとりでは生きていけませんってことだな」 饒舌に話す先生の声はすでに遠くて。 いっぱいの人間が詰まってる教室の中、何故かひとりを感じた。 街の中ほど一人を意識する。 022.さんにん ３なんて半端な数。 そう言ったやつ、どいつだ？ 実際さぁ、俺たちは三人じゃなきゃ嫌なんだ。 二人も、嫌いじゃないけど、なんかしっくりこない。 ケータイでもう一人、欠けたやつ呼び出してる。 そう。 例えば二人で２倍の力になるんなら、三人なら３乗だ。 私も三人でつるんでます。 023.螺旋状 お父さんに昔、注意されたことがある。 「螺旋階段で遊んじゃいけない。転ぶと止まらなくなるから」 ぐるぐるぐるぐる。 そのまま一番下まで落ちちゃうんだって。 そのとき私は凄く怖くなって、絶対に螺旋階段には気をつけようと思った。 ああ、なのに、あいつへの想いは螺旋状に。 ぐるぐるぐるぐる。 落下の一途を辿るだけ。 堕ちてく。 024.特別な響き ただの記号なのに。 記号が心臓を動かす。あたしの寿命を削ってく。 「可愛い」とか、「好き」とか。 「愛してる」とか、自分の名前とか。 ねぇ、どうして。 あんたが喉から音を出すだけなのに。 けつえきがもっとはやくめぐって。 025.はじめての… そう、なんでもはじめては存在して。 どんなことがあるんだろう。 想像するしかないもので。 でも誰でもはじめてのはじめては済んでて。 「はじめて生まれてきた」「はじめての生」。 じゃあ恐れることはないんじゃないか。 「はじめて死んだ」「はじめての死」まで。 ずっとはじめての明日を経験する。 哲学みたいになってきて自分でも分からなくなってきそうだ。 026.start 「じゃあそろそろ行くわな」 「おー、勝てよー」 「バカ、プレッシャーかけてやるなよ」 「こいつがそんなナイーブな奴と思うか？」 「思う思う。さっき手のひらに人って書いてたぞ」 「げ、お約束」 「くそっ。絶対勝ってやる」 スパイクの紐を締め直して、屈伸運動なんかして。 冗談言って緊張をほぐしてくれた友人に感謝しつつ。 後は勝つだけだ。 イメージは陸上の短距離。 027.月明かり ベランダの横には、いつも街灯が光っている。 電信柱に据え付けてあるもので、いつも煌々としている。 それが今日、天寿を全うされたらしく、消えている。 「不便だねぇ、今日ここの下を歩く人は」 「まぁな。明日区役所にでも電話入れとくか」 軽く頷く奥さんに旦那さんは肩を抱き寄せる。 「でも結構明るいぜ」 旦那さんが見上げてるそれは、満月じゃなくて半月以上で。 ええと、なんて呼ぶんだろう。 奥さんはそんなことを考えながら。 「そだねぇ」 ゆっくりと同意の言葉を表した。 天体観測って歌大好き（関係ない）。 028.彼 「彼」やら「彼氏」やらそういう表現は嫌いだ。 なんか軽い気持ちっぽいし、自分のモノっぽい言い方な気がするから。 「じゃあ彼のこと紹介する時どう言うのさ」 そんな問には「私の付き合ってる人」と答える。 まどろっこしい。 でもま、私はやっぱり「彼」って表現はなんか気に食わないのだ。 「彼氏さん」って言い方は好き。 029.彼女 僕の彼女は変わってる。 僕の普段知ってる女の子と比較じゃないけど照らし合わせたら。 例えば髪の色を変えようとか微塵も思ったことないようすとか。 例えば理科の物理と国語の漢文だけ水を得た魚になるとことか。 例えば誰もやりたがらない校舎裏の亀の世話をやりたがるとか。 例えば僕の彼女になったこととか。 うちの高校で天文をやらないことを嘆いていた友人は居ますが。 030.お菓子と紅茶と あら、ようこそいらっしゃいました。 いえいえ、ご丁寧に。あぁ美味しそうな香り。まあ、焼きたてですか。 ええ、あそこのクッキーは芳醇な甘さが癖になりますものね。 有り難く頂戴いたします。 突然で申し訳ない？まさか。 さあさあ、どうぞお上がりになって下さい。 お菓子と紅茶とお客様が揃えば、それだけでささやかにパーティですよ。 モロゾフのくるっと巻いた筒クッキーが大好きです。 200index BACK NEXT |